パスツレラ症とは「人獣共通感染症」(ズーノーシス)の一種です。
犬、猫などのペットから人に感染することが多く、ペットが無症状でも人間に症状が現れます。
ペットに噛みつかれたりひっかかれて感染することが多く、傷口が腫れあがって、体内に菌がまわると重症化することもあります。
人間への感染例がとても多いので、ペットを飼っている人は特に注意が必要な病気です。
パスツレラ症とは
パスツレラ症は、細菌が原因の感染症です。
パスツレラ菌は4種類あって、その中の1つ「パスツレラ・ムルトシダ」が原因になることがほとんどです。
この菌は哺乳類の上気道や消化管に存在していることが多く、特に犬の75%、猫の90%以上(100%という説も)の口腔内に存在しています。
またペットの爪や排泄物にも存在しています。
犬、猫、うさぎ、ハムスター、フェレットなどのペットのほか牛や豚などの家畜もこの菌を持っています。
またニワトリ、あひる、七面鳥などの鳥にも「鶏パスツレラ症」があります。
パスツレラ症の症状
多くの場合、動物は感染しても無症状(不顕性感染)で、人間にだけ症状が現れます。
免疫力が落ちたペットが感染すると倦怠、発熱、くしゃみなど風邪のような症状を現れ、重症になると肺炎になることがありますが、非常にまれです。
けんかをした猫や犬の傷口が化膿していたら、パスツレラ菌に感染している可能性があります。
感染した牛は出血性敗血症を起こすことがあります。
人間に感染すると、噛まれたりひっかかれたりしたところが赤く腫れて化膿して蜂窩織炎を起こします。
感染した傷口は、噛まれたりひっかかれたりした30分から数時間後という短時間の間に激しく腫れあがり、精液状の臭いがする浸出液が出ます。
そして気管支炎、副鼻腔炎、肺炎のような呼吸器系の症状が現れます。
重症化すると傷の部分が壊死したり、関節炎、骨髄炎、敗血症を起こして死に至ることもあります。
体の免疫力が落ちていると重症化しやすく、特に糖尿病を患っていると重症化するケースが多いと報告されています。
パスツレラ症の感染経路
犬、猫などのペットから感染するのが一番多い例です。
特に猫や犬に噛まれたりひっかかれたりすると非常に感染リスクが高いです。
またペットに触れた手で傷口にさわったり、ペットとキスをしたり、食器を共有するなど濃厚な接触で感染します。
ペットの排泄物に含まれた菌から感染することもあります。
またペットがくしゃみをすると、飛沫から空気感染します。
ペットではありませんが、鳥のパスツレラが鶏肉から人間に感染した例もあります。
パスツレラ症の治療
パスツレラ症に感染すると、噛まれたりひっかかれた直後に傷が腫れあがって症状が現れます。
ペットに噛まれたりひっかかれたりして激しく腫れたら、自分で治そうとせず速やかに獣医師の治療を受けましょう。
パスツレラ症には抗生物質(ペニシリン系、セフェム系)を使用して治療します。
抗生物質はよく効くので、すぐに治療を受ければ重症化することは滅多にありません。
パスツレラ症の予防
パスツレラ菌の感染を防ぐには、以下のようなことが大事です。
•ペットにひっかかれたり噛みつかれたりしないように気を付けましょう。
•過度のスキンシップによって感染することがあるので、ペットとキスをする、口の周りをなめさせる、口移しでものを食べさせる、といったことはやめましょう。
•ペットと一緒に寝るのはやめましょう。
•ペットが咳やくしゃみをしているときには近づきすぎないようにして、マスクを着用しましょう。
•ペットのトイレは人間の食物があるところから離して、掃除はこまめにして清潔を保ちましょう。
•ペットと接触した後は、いつでも手洗いをきちんとしましょう。
•免疫力が落ちていると感染しやすいので、いつも健康に気を付けて体調管理をして、体調が悪いときにはペットと距離を取りましょう。
パスツレラ症が増えている背景
近年パスツレラ症がペットから人間に感染する例が急激に増えていて、ペットをめぐる環境が問題とされています。
「ペットと人間の距離が近くなりすぎている」というのが一番の問題です。
「ペットは家族の一員」といっても、キスをしたり、食器を共有したり、一緒に寝るものではありません。
いくら可愛くても、線を引かなければならないところがあります。
また住宅事情やその他の環境の事情によって(車の交通量が多いなど)家飼いのペットが多くなっているのも感染リスクを高める原因になっています。
人間とペットの住みかが混然となってきていることが、パスツレラ症などのズーノーシスを増やす原因になっています。
パスツレラ症がどんな病気か知ろう
パスツレラ症の恐ろしいところは、ペットはほとんど無症状で、それにもかかわらずほとんどのペットが保菌しているということです。
ペットを飼っている限り、飼い主は感染リスクを逃れることができません。
どんなにかわいいペットでも、このことをしっかり知ったうえで、ご自分の健康を守りながらペットのケアをしましょう。
特に持病がある方や高齢の方、お子様は十分に気を付けましょう。