虫というと気持ち悪くて苦手、見るのも嫌という人も多いでしょう。
しかし中にはこんなに可愛いの?と思ってしまう虫もいるのです。
今回はその代表例として、トラツリアブという昆虫についてご紹介します。
トラツリアブの歴史、生態
トラツリアブは1915年に、昆虫学者の松村松年によって始めて日本で紹介されたツリアブ科の昆虫です。
ちなみにツリアブという名の由来はボバリングしながら空中停止する姿が、まるで吊り下げられているように見えるからです。
松村松年氏が「花上にアレド稀ナリ」と記しているように、とても希少で、なかなか見ることができない生物です。
また、ユーラシア大陸には広く分布していますが、国内においては知られてから100年程度しか経っていない歴史の浅い虫でもあります。
その後1991年からその生息が確認できずにいましたが、2005年、インターネット上にその存在が確認できる情報が掲載されたため、トラツリアブがまだ絶滅せずにいることが分かりました。
しかし今も数は減り続けており、2005年にその魅力的な姿が有名になると、生息地に撮影者が殺到しました。
その結果、トラツリアブの生育環境が荒らされるなど、ますます絶滅が危ぶまれています。
希少なので、1シーズンに100匹程度しか見ることができません。
野生下の生態としては、セイタカアワダチ草、フジバカマ、サワヒヨドリなどの花の蜜を吸ってエサとします。
天敵についてはトンボや、カマキリ、蜘蛛などが該当するようです。
繁殖についてはバッタ類の卵鞘に卵を寄生させて種を増やします。
このバッタについては、種類の特定できていません。
セグロイナゴがトラツリアブと同じ11月上旬まで生息していること、アブの生息地全てにおいて発見されていることなどから、このバッタが宿主として有力視されています。
トラツリアブの特徴
トラツリアブはハエ目でアブの仲間ですが、それでも注目された理由は、とても姿が可愛いということにあります。
体長は約10mm程度、体色は淡い黄色をしており、体の形はまんまるで、モコモコとした毛に覆われています。
その柔らかさは手に乗せた際にも実際触って確かめられます。
目も黒くつぶらな形をしています。
ちなみにこのように可愛らしい姿なのはメスだけであり、オスはもっとハエ目やアブらしい見た目をしています。
性格については、虫なのに人懐っこいところがあり、人の手などにもすぐ寄ってきます。
指などを差し出すと、とまったりすることもあります。
アブ科ですが刺すことはありません。
また、トラツリアブは飛行の際に、脚を開脚して飛ぶのですが、姿だけでなく、そのようなしぐさも可愛らしいと話題になっています。
トラツリアブの寿命、生息地
トラツリアブの生態については、希少な種ということで、まだ謎が多い生き物です。
成虫は10月上旬から11月中旬にしか確認できないため、少なくともその前に幼虫は生まれ、バッタの卵鞘の寄生し、秋には成虫となり、冬は越冬しないという可能性が高いでしょう。
そうであれば、寿命は1年程度ということになります。
したがって、トラツリアブの観察に行く場合は、晩秋頃に見に行くのが最適と言えます。
生息地に関してはユーラシア大陸に主に分布し日本では、岡山県の瀬戸内沿岸の丘陵地帯や、山地の一部などで多く見ることができます。
かつてはトラツリアブについては、限られた地域の半径1、5メートル程度の狭い範囲にしか生息しないと言われていました。
その後、2008年には笠岡市、2009年には倉敷市北部で確認でき、さらに同年には、生息地から数十キロ離れた県内でも見られるなど生息地に関する新しい発見がありました。
その他、少数ではありますが大阪、兵庫、三重、山口、愛媛、九州などにも生息していると言われています。
絶滅危惧種に指定されている
トラツリアブは数が元々少なく、その上、生息地の開発などによって、ますますその数を減らしていると言われています。
最悪の場合は10年以内に絶滅してしまうのでは、とも言われています。
岡山県では2010年の3月にレッドデーターブックへ記載され、絶滅危惧種として認定されました。
最近では、その可愛らしい姿からトラツリアブのファンも増え、悪気はなくともトラツリアブの生息地にある湿地植物が踏まれる等の環境問題が危惧されています。
また、放置された里山などを再び整備することで、これらの希少な昆虫が生息しやすい環境を整える計画なども検討されています。
トラツリアブの特徴を知ろう
トラツリアブは虫ですが、とても可愛いので、人気となっています。
しかし絶滅危惧種ですから、その姿を見に行く際も、湿地植物を踏む等に気をつけ、間違っても捕獲するなどしないようにしましょう。