ヤブイヌと聞いて、すぐにその姿を思い浮かべられる人はどれくらいいるでしょうか。

見たことがないという人の方が多いかもしれません。

しかしこのヤブイヌ、飼育されている動物園では、密かな人気者なのだそうです。

いったいどんな動物でどんな魅力が隠されているのでしょう。

ヤブイヌの見た目の特徴

ヤブイヌはその名前からもわかるように、犬の仲間に分類されます。

イヌ科の中でも、原始的な姿を今も残している、古い種族と考えられています。

最初に化石が見つかり、既に消滅した生き物とされていたのですが、後に実存することが判明したという面白い経緯をもつ動物です。

体長は57~75センチ、体重は4~7キロで、小さめの柴犬とおおよそ同じくらいの大きさをしています。

短い体毛をしており、全体に赤褐色をしているものの、しっぽや四肢は濃い色になっています。

足が短くて胴が長いのですが、そのおかげで、深い藪をかき分けたり、すり抜けたり、あるいは地上すれすれを通ることも出来ます。

体はスリムなのですが、これも狭くて細い巣穴で暮らすうえで役立っています。

足の指の間に水かきがついているのも特徴の一つです。

野生のヤブイヌの生息地

ヤブイヌは水辺を好む動物で、野生では、アルゼンチン東北部、コロンビア、パナマ東部、パラグアイ、ブラジル、ベネズエラなどの水辺の森林や草原地帯に生息しています。

農地や牧草地拡大のために森林が伐採されることで、生息地が破壊されてしまいました。

あるいは食用やペット用のための密猟、伝染病の蔓延などでも、その生息数は減少しています。

ブラジルやペルーでは法的に保護の対象とされており、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは準絶滅危惧種(NT)に指定されています。

ヤブ犬の生態

ヤブイヌは65~83日の妊娠期間を経て生まれてきます。

木の根元や倒木の下などで一回に主に3~5匹を産むと言われています。

生まれてきた子は生後14~19日で眼が開き、授乳期間は生後4~5ヶ月になります。

生後38~71日になると硬い食物も食べることができるようになり、オスも子育てに参加し、授乳中のメスに食べ物を運びます。

通常1~3頭の小さなグループに分かれて行動しますが、10頭くらいの群で行動することもあります。

成長すると兄弟同士でケンカをしてしまうこともあります。

そのため、動物園では個体数が多い場合は、お互いを傷つけないために、他園へ移動したりケージを分けたりすることがあるそうです。

野生のヤブイヌについては、まだあまり知られていないところも多いものの、飼育下では13年以上生きたという記録があります。

水かきがついていることからもわかるように、水中を泳ぐことが得意で、潜ることもでき、野生では水中で狩りをすることもあります。

ヤブイヌのエサや食生活

ヤブイヌは雑食です。

肉食が基本ではあるものの、果物も好きで、動物園では馬肉や鶏頭などの肉類のほか、リンゴやバナナなどもエサに混ぜて与えているそうです。

野生では、群れで狩りを行います。

得意の泳ぎで、水中で獲物を追いつめ狩りをすることもあるそうです。

狩りの獲物となるのはうさぎほどの大きさのアグーチや、動物園でもおなじみになってきたカピバラ、鳥類ですが、糞を調査したところ、ヘビやクマ、植物の種子なども食べていることがわかっています。

狩りは10頭くらいで行うこともあり、自分より大きな獲物を狙うこともあると言われています。

ヤブイヌのこんなところが人気

動物園では密かな人気者のヤブイヌですが、どこにその魅力があるのでしょう。

一つにはメスの独特な放尿スタイルにあります。

イヌのようにしゃがんでするのではなく、逆立ちをして放尿します。

マーキングのためだと考えられていますが、その姿はなんともユニークなものです。

ちなみに、オスはイヌと同様、片足をあげたスタイルで排尿します。

次に挙げられるのは、その鳴き声です。

名古屋市の東山動植物園では、ヤブイヌが根強いファンのいる人気動物である理由として、一日中キューキューと鳴きながら良く動くことを挙げています。

頻繁に鳴いているのは、声を出しあうことで、森林の茂みなど見通しの悪いところでも互いに連絡を取り合うことができ、群れの維持に役立つためだと考えられています。

そしてもう一つ、ヤブイヌの特徴ともいえることに、後ろ歩きがあります。

ヤブイヌは顔を前に向けたまま、後ろ向きに歩くのが大得意です。

ヤブイヌの巣穴は細くて長いので、そこをスムーズに移動するには後ろ歩きが適しているというわけです。

ヤブイヌの特徴を知ろう

さて、ヤブイヌがいったいどんな動物なのか、少しはおわかりいただけたでしょうか。

スリムだけれど胴長短足で、逆立ちしておしっこしたり、後ろ向きに歩いたり、イヌの仲間なのにキューキュー鳴く、そんな動物がヤブイヌです。

ペットとして飼うことはできなくても、名古屋市東山動植物園、京都市動物園などで飼育されています。

機会があればぜひ見に行ってみてください。