ふと水槽を覗いたときに、見慣れているはずの金魚の体表面の模様が以前と少し異なる気がするという経験はありませんか?
あるいは、金魚が金魚を追いかけ回しているなんて場面に遭遇された方もいるのではないでしょうか?
もしかするとそれら一連の行動・兆候は求愛行動に起因する変化なのかもしれません。
そもそも金魚の求愛行動とは?
そもそも求愛行動とは何でしょうか?
求愛行動とは、広義では雌雄のある動物個体が繁殖行動のため、あるいはそれ以外の要因(雌雄のつがいとしての関係を持続させるためなど)によって、性別を異にするもう一方に対して何らかのアピールを行うことを指します。
例えば動物園にいる雄のクジャクがキレイな羽を広げ雌にアピールすることや、カワセミなどに代表される鳥類の雄が雌にエサを与える、求愛給エサを行うのもそれに該当します。
もっと身近な例だと、モンシロチョウの雄が雌を追いかけていき交尾に持ち込む、あれも立派な求愛行動の一つです。
求愛行動の形態も種類や環境によって様々でありますが、それぞれの種が繁栄していくためには欠かせない行動の一つなのです。
金魚の求愛行動の兆候
上記のように金魚も例外ではなくいくつか求愛行動の兆し、また求愛行動が観察されることがあります。
金魚の求愛行動が始まる時期になると、雄のえらの上から目の手前辺りにかけて、あるいは胸びれの辺りに白い斑点が観察されるようになります。
これを「追星」と言います。
基本的には追星は求愛行動に差し掛かる際に現れるものですが、年がら年中で出ている個体もおり、個体差はあります。
金魚を始めとする魚類の病気の一種、「白斑病」と間違われることが多いので注意が必要です。
追星が出始めると求愛行動が観察されるようになり、雄は雌をものすごい勢いで追いかけ回し、産卵口の付近をつつく様子が観察されます。
この行動を「追尾」と言います。
求愛行動の起こる季節と条件
金魚の求愛行動が観察される期間は長く、春から秋にかけて(水温が20℃前後となる期間)求愛行動が観察されます。
また、水の入れ替えや恒温ヒーターの温度変化に伴う水温の急激な変動、また水質改良剤等による水質変化などの環境的な要因によって、それらの行動が引き起こされることもあります。
金魚にはえらの辺りから尾ひれの辺りにかけて「側線」と呼ばれる点線のような器官がはしっており、これらが温度や水圧などの変化を鋭敏に感じ取ることで、求愛行動に移ってゆくと考えられています。
雄が雄を追い回すこともありますが、これは求愛行動ではなく縄張り争いである可能性が大きいです。
求愛行動から産卵まで
追尾が観察されるようになると、産卵の可能性が高まります。
雄が雌の産卵口付近に何回か刺激を与えることで雌が産卵を始めます。
雌は泳ぎながら、体を大きく捩じらせこすりつけるようにして水槽の壁面や水草、また水底などのあらゆる場所に産卵します。
追尾が確認された後にこすりつけるような行動が観察されるようであれば十中八九、水槽内に卵の存在があると考えて良いでしょう。
雌が産み付けた直後にそれらの卵に雄が精子をかけ、卵は受精に向かいます。
卵の大きさはおよそ1~2mmほどの大きさで、透明の球形をしており、また雄の精子は細くクモの糸のように水中を漂っているのが観察することができます。
産卵後の孵化までの流れ
一匹の金魚は大体一回に5000個前後の卵を産むとされていますが、水槽の環境や個体差によって個数は異なり、仮に多くの卵が産み付けられていたとしても受精していない可能性が十分に考えられるため、実際に孵化する卵はさらに少なくなります。
また水草等に産み付けられた卵は、すぐにそれらを回収しないと親金魚に食べられてしまう可能性があります。
そのため、産卵された水草や石などはすぐに取り出し、別の水槽で育てる必要があります。
水温は親金魚の水槽と同程度が好ましく、春先まだ水温があまり上がらないような条件下であったらヒーターを使用し、温度を20℃前後に保つと良いでしょう。
卵は20℃前後の水温下で、おおよそ5日~6日程の期間を経て孵化します。
孵化が始まる少し前に卵を注意深く観察すると、黒い点々が視認できるようになります。
これは稚魚の目の部分に当たります。
さらに、孵化直前になると卵の中でぐるぐると動いている姿が確認できます。
生まれたばかりの稚魚には栄養の入った袋のような「さい嚢」と呼ばれるものが付いており、3日~4日程はそこからの栄養のみを摂るため、その期間はエサを与える必要はありません。
求愛行動前の注意点
少し立ち返りますが、求愛行動が起こる環境に関していくつか気を付けなければならない点があります。
そのひとつが、金魚の個体数に合わせて適切な大きさの水槽、適切な水量の水を用意するということです。
体長が3cm程の和金を例にとって考えると、一匹当たり3~6リットル程の水量が一つの目安となると考えて良いでしょう。
あまりにも水量が少ないと、求愛行動をする際に壁面やポンプ等に体をぶつけて体表面を傷つける可能性が高まる上、水質の悪化、溶存している酸素の不足なども招きやすくなります。
また、水槽内にプラスチック等でできた水草や流木などのオブジェを置きすぎてしまうことも、金魚にとっては好ましいことではありません。
アナカリスやガボンバ(キンギョモ)などの水草を選ぶなど、あらかじめ対策をした方が良いでしょう。
求愛行動後の注意点
求愛行動は冬以外のシーズンで条件さえ満たせば、ひっきりなしに行われます。
そんな中、追いかけられる雌も大きく体力を消費します。
観察していてあまりにも求愛行動が頻発しているようであったら、雄と雌をしばらく別の水槽に分けても良いでしょう。
また、先ほども述べたように、求愛行動の後には産卵が行われている可能性があります。
孵化する前の卵には透明でなく、濁った白色のものもあります。
それらは無精卵、もしくは死んでしまった卵です。
水質悪化の原因になるので、移し替える際に取り除く必要があります。
また、稚魚が孵化した後の水槽は強いエアーポンプなどを使うことができません。
生まれたばかりの金魚はまだ泳ぐ力が弱く、エアーポンプに吸い込まれて死んでしまうことが時々あります。
小さい泡が出て、あまり水流を起こさないようなエアストーンのようなタイプの装置が好ましいでしょう。
金魚の求愛行動について覚えておこう
ひとえに金魚の求愛行動と言っても、どの生き物にも共通して言えることですが、それが起こるタイミングや条件というのは様々です。
金魚の行動の原理や体の特徴を踏まえた上で水槽の管理を行っていくことで、飼い主さんにとっても、また金魚にとっても気持ちの良い環境で繁殖をすることができるようになるでしょう。